荻野先生によって蒔かれた
臨床心理の種子

池田豊應(大17期 教育)
 前回のこの欄の夏目君と同じく、私も文学部教育学科を卒業したのは昭和43年のことである。爾来すでに40年近くが経過し、かつての紅顔の美青年も還暦を迎えようとしているのだから、まさに「少年老い易く、学成り難し」の感慨、ひとしおのものがある。
私は、今は亡き荻野恒一先生の弟子であるが、先生は当時すでにわが国を代表する一流の精神病理学者であり、教育心理学専攻の指導生から、多くの心理臨床家を育てられた。同門の多くの先輩後輩が今日、臨床心理士や大学教授として第一線で活躍中である。私自身は卒業後、精神科病院勤務ののち、名古屋大学大学院博士後期課程を満了し、同大学院教官、東海女子大学教授を経て、現在、愛知学院大学心身科学部に在職している。


 私が卒業したころには、臨床心理の専門家資格を国家レベルで認証する制度を設立しようとする動きが高まっていたが、その後、大学紛争、学会紛争が激化する中で、この動きはあえなくついえていった。その後長い経緯を経て、十数年前「臨床心理士」が正式に資格化された。今日、スクール・カウンセラーをはじめとしてその要請はきわめて高いため、この資格所有者は決定的に不足している。それゆえ、この資格保有者の養成が焦眉の急なのであるが、愛知学院大学院は、この資格養成大学院制度発足の年から、臨床心理士養成第一種指定を受けている。ここを卒業して、臨床心理士資格を取得した私の指導院生は、すでに数十名に達している。



『ヨコ体験グループ』のスタッフたちとともに
 このような臨床心理士養成の訓練として私が行っている臨床実践は、大勢の不登校生徒と院生が一緒になって合宿や月例会を継続する中で、親密な人間関係を通して、生徒の人間的成長を促す集団心理療法的接近である。これは「ヨコ体験グループ」と名づけられ、私の名古屋大学時代以来すでに十数年にわたって続けられてきた。

 この成果は毎年、学会に発表してきていることもあって、その理論と実践は、もっとも有効な不登校問題へのアプローチとして多くの注目を集めている。具体的には、拙著「不登校 その多様な支援」(大日本図書)、「人間学的心理学」(ナカニシヤ出版)等を参照いただければ、幸いである。

 今日、このような形で臨床的な寄与ができているのも、最初のオリエンテーションを与えられた恩師、荻野恒一先生のおかげである。先生によって蒔かれた「人間学」の種は、今や孫の世代にいたって大きな花を開かせようとしているのである。